乱反射の光跡 in hatenablog

なみへいのブログです。hatenablogヴァージョン。

啓示空間-アレステア・レナルズ

啓示空間 (ハヤカワ文庫SF)

 やたらと厚い文庫本。『ハイペリオン』は分冊だったのに、などと思いつつ、読んでいるうちに前に読んだところを読み返したりしている自分に気づき、ふと「分冊でなくてよかったのかも」と思っている自分がいたりして(笑)。
 いきなり自分の置かれている状況よりも目の前の遺跡を優先しようとする主人公・シルベステに最初ちょっと引いたりもしましたが(笑)、それは僕の勝手な思い込みだったかも。読み進めていくうちに、目の前の謎に邁進するシルベステの姿を応援したくなってきている自分を発見したりして(笑)。
 以下は、ネタバレ御免の文章で。

 広大なスケールのスペースオペラ。空間的にも、時間的にも。
 99万年前に滅亡した異星種族アマランティン族の謎を追う考古学者シルベステ。偶然の事故から殺人ゲームのプレイヤーになり、頭角を現しているアナ・クーリ。近光速船の乗員として恒星系から恒星系へと旅を続けるボリョーワ。
 物語はこの3人の登場人物の視点を中心に進んでいきます。入れ替わり立ち替わり現われるこの3人の視点がモザイクのように絡み合い、最初は3つの物語を同時進行で読んでいるような(作者によって読まされているような)感覚に陥ったりもしますが、それぞれの物語は細かく描写され、突然の場面転換に戸惑う以外は、以前の場面を思い出せればすんなりと読み進めることができます。
 この辺は「語り部」としての作者の力なのでしょうか。僕が前の方を読み返したりしたのは本当に100ページ以上前に起こった出来事に突然言及されたときとかだけで、多くの部分は読みながら思い出せるように丁寧に描写されています。

 そのうちに3つの視点が次々と繋がり始め、ひとつの謎を巡る物語へと収斂していく様は読んでいてわくわくしました。さらには99万年前(!)の、異星文明絶滅の謎(シルベステが追っていた)までも絡んでくることになり、物語はどんどんとスケールアップします。
 いきなり「10億年前」と言われてしまって思わず笑ったりしましたが(笑)。
 それにしても、10億年前に始まった宇宙戦争、99万年前に突如絶滅してしまった異星文明、そして中性子星の周囲を巡る巨大な人工構造物。
 ジグソーパズルのピースのように各登場人物の過去と現在の行動、人物同士のやり取りと探り合い、無関係に見えたそれぞれの謎から見出される関係などがストーリーの中に鏤められ、読み手はあっちからこっちへと次々と連れて行かれ、やがて謎がひとつに収斂して行くと共に、登場人物たちは中性子星を回る構造物へと引き寄せられていきます。

 一応ハードな部分もあって、そこでは読み手の好みが分かれるところかもしれませんが、複雑な構成を持ちつつも、エンタテインメント性に溢れた良質なスペース・オペラだと思います。
 次々と転換する場面、複雑な線を辿るストーリー、やがてひとつに収斂していく謎、といった特徴にちょっと感じたのは、いわゆる「ジャパニメーション」=日本製TVアニメとの親和性。鷲尾直広氏の巻頭イラストを見てそう思っただけなのかもしれませんが(笑)、こうした特徴を共有するこの物語は、ある意味アニメ化しやすい作りになっている、のかもしれません。
 ただし、この作品が「SFファン」ではなく「アニメファン」にどこまで受け入れられるか、ということについては、僕は全く確信はありませんが。