乱反射の光跡 in hatenablog

なみへいのブログです。hatenablogヴァージョン。

F1-2006-18 ブラジル


F1・2006年最終戦、ブラジルグランプリ。
気温24度、路面温度45度、湿度55%。日本の裏側、ブラジルは先週の日本のような上々の天気に恵まれました。その晴天の下、決勝グリッドはポールポジションから5台が全て別々のチームという、前回の日本グランプリとは対照的なグリッド隊列でスタートすることになりました。フェラーリマクラーレントヨタルノー、ホンダと並んだ隊列は、順番はともかくポイントランキングの上位を占める5チーム(トヨタは6位。5位にはBMWがいる)であり、今年のF1のチーム力を象徴するような隊列になったのは、とても意味深いような。
そうして始まった決勝レースは、トラブルあり、アクシデントありの一見波乱含みの展開を見せながらも、とても見応えのある、モーターレースの醍醐味を味わわせてレースになりました。
その立役者は、何といっても「皇帝」ミハイル・シューマッハだったと言えるのではないでしょうか。


そのミハイル・シューマッハ鈴鹿ではエンジンブローでリタイア、今回の予選・第3ピリオドでも燃料の圧力の問題でまともに走ることができないなど、終盤に来て変調気味のマシンは決勝でもミハイルに苦労をかける羽目になりました。決勝レースでも見事なパフォーマンスを見せたかと思うとスローダウンしてしまったりするシーンが何度か見られました。
 スタート直後のダッシュで10番グリッドから7位へ浮上、その後バリチェロを抜いて6位へ。ロズベルグのクラッシュによるセイフティカー導入のあと、レース再開の直後にフィジケラを抜いたまではよかったのですが、フィジケラとの接触があったのか左リアタイヤをパンクさせてしまい、あえなくピットへ。
このピットインで最後尾(18位)にまで順位を下げてしまったミハイルでしたが、この後が凄かった。この巻き返しはまさに「ファンタスティック!」と叫びたくなるような、最高に見応えを感じる走りだったと思います。


周回を重ねるたびに順位を上げ、ドーンボスをかわし、ハイドフェルドを抜き、クビサを抜いたところでスローダウンしてまた抜き返され、再び態勢を立て直してクビサを抜き直し、給油のためのピットインで再び順位を下げながらもフィジケラのピットインで7位に浮上、50周目でバリチェロをかわし、かわしながら手を上げてバリチェロに挨拶し(笑)、オーバーランしたフィジケラをかわし、ライコネンを正々堂々と抜いて、終わってみれば4位でのチェッカーフラグ。
 突然スローダウンするようなマシンの挙動不審(笑)がなければ、たとえパンクして最後尾に落ちても、走行中の全てのマシンに挨拶を送りながら(笑)抜いてトップを走っていたかも知れないと思えるほどの、軽やかで力強いミハイルの走りだったと思います。


と言うか、今回のミハイルの走りは、ラストランであることを差し引いても、本当に見ていてドキドキ、ワクワクさせてくれる走りで、スリリングでした。だからと言って無理をしてマシンを駆り立てている雰囲気もなく、他のマシンを圧するポテンシャルを感じさせながらも、逆に「楽しげ」な雰囲気も漂わせているような感じでした。それでいてファーステストラップを記録してしまうという、まさに「ファンタスティックな走り」としか言えないような、そんな印象を強く抱いてしまいました。


それは、このレースが彼のラストランである、ということも関係しているのかも知れません。
これは僕の勝手な想像ですが、最後の最後に、ミハイルは自分が感じてきた「走る」ことの魅力や楽しさを存分に味わうことこそを、求めたのかも知れません。
そしてミハイルは、マシンが完璧な状態ではなくても、もしかしたら完璧ではないからこそこのレースを「楽しみ」、「ワクワクとした気分で」レースを戦ったのではないでしょうか。それほどまでに、ミハイルの走りは「走ることの楽しみ」、「速く走ることの魅力」、「レースを戦うことの高揚感」、「そして何より、速く走ることのワクワク感」に満ちたものだったと思えます。
そしてそれを、中継画面を見ているだけの僕にも感じさせてくれるほどの「強さ」で発進し続けてきたのが、今回のミハイルの「走り」ではなかったかと思います。
もしかしたら、このレースをいちばん楽しんでいたのはミハイル自身だったのかも知れません。そしてその「楽しさ」が、画面を見ているだけの僕を巻き込んでいただけなのかも知れません。
だとしたら、それでなくても、やはりミハイルは「F1を走るために生まれ、生きてきた」男なのでしょう。機械のように正確にマシンを操りながら、同時に子供のように無邪気に「楽しげに」マシンを操ってしまうミハイル。ここに、彼の「天才」があるのではないかな、などと思ってしまいました。


最後の最後に、ミハイルは「別次元の走り」を見せてくれたのではないか。何よりも速く走ることこそが天性のドライバーである自分自身にとっての至上の喜びであることを、ミハイルのマシンとその走りが、謳い続けているような、そんな走りではなかったでしょうか。


そんな「楽しげ」なミハイルとは対照的に、いたってクールにベストパフォーマンスを見せてくれたのが、チームメイトのフェリペ・マッサでした。予選から好調を維持し続け、ブラジルグランプリでは何とアイルトン・セナ以来となる「ブラジルグランプリでのブラジル人ドライバーの優勝」を成し遂げてしまいました。しかも、polet to Win。
こちらはトラブルもアクシデントもなく、終始トップを維持しながら2位のアロンソ以下を引き離し、堂々たるトップチェッカー。
ここへ来て、マッサはミハイルの後継ドライバーとして、見事な成長を遂げたように感じます。世代交代によってポテンシャルを落としてしまうのではなく、「皇帝」ミハイルが引っ張ってきたフェラーリのポテンシャルをそのままに若返りをするという、困難な「若返り」をフェラーリは果たしたのかも知れません。
このような世代交代、「若返り」というのはなかなか見られないものではないでしょうか。それもまた、引退を決意したミハイルが引っ張ってきたものだとしたら、ミハイル・シューマッハという人物のF1への思い入れ、「走ること」へのこだわりが垣間見えるような気がします。


それにしても、マッサの若さ。表彰台でも喜びを抑えきれず、国家演奏中に掲揚される国旗を指さしてみたり、トロフィーを受け取るとすぐさま(フェラーリのエンジニアがコンストラクターとしての表彰を受ける前に)表彰台を飛び出してみたり(笑)、そんな「大はしゃぎ」を演じる姿は、またF1が「新しい世代に受け継がれていく」、その証しのようにも見えます。


と、そんなふたりのフェラーリドライバーの姿の前で、ちょっと影が薄くなってしまったけど(笑)、立派に2位フィニッシュを決め、2年連続でドライバーズチャンピオンシップを手にしたフェルナンド・アロンソ。もちろんコンストラクターズでもルノーにチャンピオンシップを齎し、見事なダブルでのチャンピオンシップ獲得です。
いくつもの記録を塗り替えた王者のラストラン、最高のパフォーマンスを見せた母国ドライバーというふたりがいては、テレビ画面では影が薄くなるのもしょうがない(笑)でしょうが、今年はミハイルと互角の戦いを演じてのチャンピオンシップ獲得。これはやはり「凄い」と言っていいと思います。


印象的だったのは、やはりフィニッシュした痕のウィニングランで、ヘルメットの上から両手で顔を覆ったシーン。人前では強気な態度を保っていたアロンソですが、皇帝ミハイルをコースの上で負かしてのチャンピオンシップ獲得は、やはり感慨深いものがあったのでしょう。


そして、日本人としてはこれは外せません。佐藤琢磨選手@スーパーアグリの、最高順位となる10位フィニッシュ。じわりじわりと調子を上げてきたスーパーアグリマシンは、ここへ来てさらにステップアップを遂げたようです。残念ながら画面にはなかなか映りませんでしたが、トップチームと遜色ないラップタイムを残しながらの10位フィニッシュは、間違いなく快挙といえるでしょう。


対照的に、早々とマシンをガレージに入れて今年のレースを終えてしまったトヨタ
報道によればラルフ・シューマッハヤルノ・トゥルーリの両者のマシンにリアサスペンションのトラブルが発生し、そのためにレースを続けられなくなったそうで。
トゥルーリが3番グリッドを獲得、ラルフもまた7番グリッドと好位置での決勝レースだっただけに残念でした。


そして、こちらも赤いマシンやらナショナルカラーのレーシングスーツやらの前で霞んでしまいましたが(笑)、しっかりと表彰台に乗ったジェンソン・バトン。予選14位から巻き返しての3位表彰台は、これもまた見事と言っていいのではないでしょうか。
今期、ルノーフェラーリ以外では唯一表彰台の真ん中に立ったバトン@ホンダ。後半戦では毎回手応えの感じるレースを続けるようになったのかな、と感じます。


で、5番グリッドからスタートし、7位入賞を果たした我が(笑)ルーベンス・バリチェロ。バトンの走りと比べてしまえばまだまだ物足りない感じもしますが、最近のレースではマシンと「噛み合わない」感じはしなくなってきたように感じます。
バリチェロ+ホンダの本領発揮は、来年に持ち越しとなりました。来年はタイヤ供給がブリジストン1社のみ、ということで、ブリジストンタイヤをよく知っているバリチェロが、来年のホンダ+ブリジストンという組み合わせからどんなパフォーマンスを引き出してくれるのか、楽しみにしたいと思います。


これにて、2006年シーズンも終わり。
ミハイルが去り、ヴィルヌーヴも姿を消し、代わって元気な若手ドライバーがレースを盛り上げてきた2006年。トップドライバーの移籍もいくつか決定しているようで、来年は今年とはまた一味違った、フレッシュなF1になるように思えます。ミシュランタイヤが外れ、タイヤ供給はブリジストン1社のみとなり、ミハイルが去ったシートにはライコネンが座り、ライコネンが去ったマクラーレンでは、代わってアロンソがそのステアリングを握ることに。
今年表彰台の真ん中を味わったバトン@ホンダの来年、バリチェロの来年、そして、スーパーアグリの来年。すでに来年に向けての各チームの動きは始まっているのでしょう。
今回のミハイルが見せてくれた素晴らしいパフォーマンスと、その興奮。来年は、誰がどんなパフォーマンスを見せてくれるのでしょうか。レース観戦はこれにてしばらくお休みですが、今から来年のシーズンスタートが楽しみです。